第1章:はじめに|精神疾患は「回復する」病気です
かつて、うつ病や双極性障害、パニック障害などの精神疾患は、「治らない病気」という誤解と偏見に囲まれていました。しかし、現代の精神医療は進歩し、多くの人が適切な治療や支援によって回復を遂げ、再び自分らしい生活を取り戻しています。
ここで強調したいのは、精神疾患にも「回復のプロセス」があるということ。そして、その中には“治りかけ”という独特なフェーズが存在するという事実です。
第2章:精神疾患の「回復」とはどういう状態?
■ 「回復=元通り」ではない
精神疾患の回復は、風邪のように「完全に元に戻る」こととは違います。
回復とは、「症状が緩和され、再び生活を立て直す力を取り戻す」プロセスです。
■ 症状の消失と生活機能の回復は別の話
・うつ病:気分の落ち込みが改善しても、仕事や人付き合いにまだ自信が持てない
・双極性障害:気分は安定していても、急な感情の波に敏感になる
など、症状と社会生活の“回復スピード”にはギャップがあります。
第3章:治りかけに見られる「心と体の回復サイン」10選
ここからは、実際に多くの回復者が感じた**「小さな変化」**を紹介します。
1. 朝が少し楽になる
- 起き上がるのに時間がかかっていたのが、自然と起きられる日が出てくる
- 体内時計のリズムが整ってくるサイン
2. 食欲が戻ってくる
- 拒否していた食事が「おいしい」と感じる瞬間
- 好きなものが食べたいという欲求がよみがえる
3. 笑える瞬間がある
- 動画・会話・SNSなどで「ふと笑える」
- ユーモアを感じ取る余白が戻ってきている証拠
4. 将来の話ができるようになる
- 数日前・数時間先しか考えられなかったのが、数週間、数ヶ月先の話をできるように
5. 「他人の存在」が気になってくる
- 孤独を好んでいた状態から、人恋しさを感じるようになる
- 人間関係に気を配る余裕が生まれる
6. 動きたくなる衝動がある
- 部屋を片づけたくなる
- 体を伸ばしたくなる
7. 外の空気を吸いたくなる
- 窓を開けたくなる、外に出ることが苦痛じゃなくなる
- 季節や天気に気づけるようになる
8. 音楽が心に響くようになる
- 無音でいたい状態から、好きな音楽を楽しめるようになる
9. 自分にツッコミを入れられる
- 自分の言動に「いやいや、何やってんの(笑)」と軽く笑えるようになる
10. “ありがとう”が自然と出てくる
- 感謝の言葉が無理なく出てくるようになるのは、大きな変化の兆し
第4章:「回復期の落とし穴」に注意しよう
■ なぜか焦りやイライラが出てくる
- 心が回復し始めると、“停滞”が苦しくなる
- 昨日まで寝込んでいたのに、急に活動したくなる「リバウンド期」
■ 元気になったようで無理をしがち
- 「もう元気だから」と頑張りすぎる
- 反動で再び落ち込むリスクがある(回復曲線の山谷)
■ 周囲とのズレに戸惑う
- 家族:「元気そうだね!」→本人:「まだ全然つらいんだけど…」
- 本人と周囲の認識に差があると、孤独感が強まることも
第5章:回復期に心がけたい習慣と行動
■ 1日1つでOK|小さなタスクで成功体験を積む
- 洗顔、歯磨き、ゴミ出しなど、「自分でできた」感覚を育てる
■ 「楽しいことリスト」を作っておく
- 散歩・音楽・香り・日光浴など、自分が好きだったことを思い出すリスト
■ スマホとSNSは距離感がカギ
- 回復初期は「比べてしまう」ので注意
- 誰かとつながることがエネルギーになる時期もある
■ 頑張らない「セルフケア」のすすめ
- 呼吸法、ぬるめの入浴、アロマなど“受動的な癒やし”が有効
第6章:家族・周囲の人へ|回復期の接し方とNG例
■ NGワードに注意
- 「もう元気そうだね」→プレッシャーになる
- 「頑張って」→すでに十分頑張ってる
■ やってほしい接し方
- 「今日はどうだった?」ではなく、「今日は何か食べられた?」
- “成果”より“過程”に目を向ける
■ 一緒に過ごすだけで支えになる
- 沈黙を恐れず、「そこにいる」ことが安心になる
第7章:再発を防ぐための「自分のサイン」の記録法
■ 日記・メモを活用しよう
- 気分、体調、行動をゆるく記録しておく
- 「こうなると私はしんどい」「この時期に調子を崩す」などのパターン把握
■ “予防メニュー”を見つける
- 調子が悪くなる前にできることを探しておく
- 例:深呼吸、コーヒーを控える、1人になれる場所へ避難 など
第8章:回復とは、人生の“再スタート”
精神疾患は、誰にでも起こりうるものであり、「心の風邪」と例えられることもあります。
そして、その回復は「前と同じ自分に戻る」ことではなく、
**「新しい自分と生きていく準備を整える時間」**とも言えます。
「治りかけ」は、目に見えにくく、感情も揺れやすい時期。
でも、そこを超えた先には、穏やかで自由な日常が待っているのです。
まとめ|回復は「プロセス」そのもの
- 回復期には、心と体にさまざまな“兆し”が現れる
- 無理をしすぎず、波があることを前提に過ごすことが大切
- 支える人は「焦らず、寄り添う」がキーワード
- 回復とは、「新たな自分とのつきあい方」を見つけること

コメント