慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、長期間にわたり有害物質(主にタバコの煙)を吸入することで、気道や肺胞に炎症が生じ、空気の流れが障害される病気です。かつては「慢性気管支炎」や「肺気腫」として知られていましたが、現在はこれらを包括する病名としてCOPDが用いられています。
COPDの主な危険因子
COPDの発症には、外因性と内因性の危険因子が関与しています。
外因性の危険因子
- 喫煙:最も大きな危険因子であり、COPD患者の多くが喫煙者または過去に喫煙経験がある人です。喫煙者の20%前後(5~6人に1人)がCOPDに罹患すると推測されています。
- 大気汚染:都市部における自動車排気ガスや工業排煙などが気道に悪影響を及ぼします。
- 有機燃料(バイオマス)の煙:調理や暖房の際に生じる煙を長期間吸入することがCOPDの発症リスクを高めます。
- 職業性粉塵・化学物質:鉱山、建設、製造業などの職場環境での粉塵や化学物質への曝露が関係しています。
内因性の危険因子
- 遺伝的要因:わが国ではまれですが、α1-アンチトリプシン欠乏症がCOPDの一因となることが知られています。
- 加齢:加齢に伴い肺機能が低下し、COPDの発症リスクが高まります。
COPDの特徴
COPDは、末梢気道病変と気腫性病変が複合的に関与して生じます。これらの病変が進行すると、肺から空気を十分に吐き出せなくなり、閉塞性換気障害が起こります。
また、COPDは進行が非常にゆっくりであり、日本では約500万人が罹患していると推定されています。しかし、認知度が低く、実際に治療を受けているのは数十万人程度です。そのため、自覚症状に気づかず、喫煙を続けて病状が悪化してしまうケースが多いのです。
COPDの症状
初期症状は軽微で、多くの人が気づきにくいため診断が遅れがちです。
- 初期:咳、痰がみられることがあるが、ほぼ無症状のことも多い。
- 中期:階段の昇降や少しの運動で息切れを感じる。
- 進行期:安静時でも息切れが生じ、日常生活に支障をきたす。
- 末期:呼吸不全に陥り、酸素吸入(在宅酸素療法)が必要となることがある。
また、COPD患者は肺炎、肺がん、肺線維症などの肺合併症や、高血圧、心疾患、骨粗鬆症、糖尿病などの全身併存症を発症しやすいことが知られています。
COPDの診断
COPDの診断には、スクリーニング検査や呼吸機能検査(スパイロメトリー)が用いられます。
- スクリーニング検査:mMRCスケール(息切れの程度を評価)やCATスコア(生活の質の影響を評価)を用いる。
- 呼吸機能検査:スパイロメトリーを実施し、1秒量(FEV1)や1秒率(FEV1/FVC)の低下を確認。
COPDの治療と管理
COPDは進行性の疾患であり、完治させる治療法はありません。しかし、適切な治療によって症状をコントロールし、生活の質(QOL)を向上させることが可能です。
1. 禁煙
COPD治療の最も重要な要素は禁煙です。喫煙を続けると肺機能の低下が加速し、症状が悪化します。ニコチン依存がある場合は、禁煙補助薬(ニコチンパッチ、バレニクリンなど)を活用するのも有効です。
2. 薬物療法
- 吸入薬(気管支拡張薬):
- 短時間作用型β2刺激薬(SABA):発作時の緊急対応。
- 長時間作用型β2刺激薬(LABA):日常管理に使用。
- 長時間作用型抗コリン薬(LAMA):気道を広げる効果がある。
- 吸入ステロイド(ICS):重症例ではLABAやLAMAと併用。
3. 呼吸リハビリテーション
- 呼吸法の指導(口すぼめ呼吸など):呼気時に気道を広げて効率的な換気を促す。
- 運動療法:筋力低下を防ぎ、運動耐容能を向上させる。
4. 在宅酸素療法(HOT)
進行したCOPDでは酸素療法が必要になる場合があります。在宅酸素療法(HOT)により、低酸素状態を改善し、生活の質を向上させます。
COPDの予防
COPDの予防には、危険因子を避けることが重要です。
- 禁煙・受動喫煙の回避:喫煙は最大のリスク要因であり、禁煙が最善の予防策です。
- 大気汚染の影響を最小限にする:マスクの着用や換気を工夫し、汚染物質の吸入を避ける。
- 感染予防:COPD患者は肺炎やインフルエンザのリスクが高いため、ワクチン接種を積極的に受ける。
- 適度な運動:肺機能の低下を防ぎ、全身の健康を維持するために運動を継続する。
まとめ
COPDは喫煙や環境要因によって引き起こされる慢性の呼吸器疾患であり、早期発見と適切な管理が重要です。禁煙を中心とした生活習慣の改善、吸入薬やリハビリテーションを活用しながら、病気と向き合っていくことが求められます。COPDの認知度向上に努め、早期診断と適切な治療を受けることが、患者のQOL向上につながります。

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