子どもの感染症まるごとガイド

疾患・症状

第1章 なぜ子どもは感染症にかかりやすいのか

「なんでこんなにすぐうつるの…?」
子育て中の多くの家庭が、一度は感じる疑問かもしれません。
特に保育園・幼稚園に通い始めると、まるでリレーのように感染症が次々とやってきます。

しかし、これは決して“体が弱い”からではありません。

子どもは生まれたばかりのとき、免疫システムが未完成の状態です。
外の世界に出て、さまざまなウイルスや細菌にさらされる中で、少しずつ「免疫の経験値」を積み、体はゆっくりと強く育っていきます。

■ 集団生活で感染が広がるしくみ

  • 保育園は子ども同士が密にふれあう場所
  • おもちゃ・タオル・机を共有する
  • 咳やくしゃみの飛沫が近距離で届きやすい

つまり、**感染症にとって“理想的な環境”**とも言えます。

■ 兄弟間感染がループする理由

  • 一人が治るころ、もう一人が潜伏期
  • 免疫がついていない年齢差がある
  • 看病で親が疲れて免疫が落ちる

「下の子だけ軽く済んだ」など差が出るのは、その子が前に同じウイルスに触れたことがあるかどうかで決まります。

■ 重要な視点

病気をすること自体が、免疫のトレーニング。
「病気ゼロ」ではなく「重症化を防ぎながら、経験を重ねて強くなる」が理想。

だから、親が「守れていない…」と責める必要はありません。
あなたの子は、今まさに強くなっている途中なんです。


第2章 感染症の基本をやさしく整理

感染症を理解するためには、最初に「言葉の意味」を整理しておくと安心できます。

■ 潜伏期間とは?

ウイルスに感染してから、症状が出るまでの期間。
園でうつった日と発症日は多くの場合 ズレる ため、
「昨日遊んだ友達じゃなくて前の週でもらっていた」ということはよくあります。

■ 感染経路の違い

種類感染しやすさ
飛沫感染咳・くしゃみのしぶきインフル、RS
空気感染空気中に漂う → 同室でうつるはしか、水ぼうそう
接触感染触った手 → 口・目へノロ、ロタ、手足口病

空気感染(はしか・水ぼうそう)は、感染力が非常に強いことがポイント。

■ 受診すべき“危険なサイン”

  • ぐったりしている
  • 呼吸が速い・肩で息をしている
  • 水分がとれない(半日以上おしっこ少ない)
  • 意識がぼんやりしている

症状の重さは「熱の高さ」ではなく「元気さ」で見るのが大切。


第3章 “発疹が出る感染症”の見分け方

発疹は「見た目で病気を推測できる」大きな手がかりです。
よく登場する4つを整理します。


① みずぼうそう(水痘)

  • 最初は小さな赤い点
  • 透明の水ぶくれ
  • → 破れてかさぶたになる

特徴:同時に“いろんな段階の発疹”が混在していること。

かゆみが強いため、爪は短く。
かきむしりは とびひ の原因になるため注意。

  • ワクチンで重症化をかなり防げる
  • 登園基準:すべての発疹がかさぶたになるまで

② 手足口病

  • 手のひら・足裏・口の中・おしりに発疹
  • 特に 口内が痛くて食べられない → 脱水リスク

夏に流行しやすい。
同じ名前でもウイルスが複数あるため、再感染あり

  • 登園基準:全身状態が良ければOK

③ 突発性発疹

  • 生後6〜18ヶ月に多い
  • 2〜3日続く高熱 → 解熱した“あと”に発疹が出る

「熱が下がったのに発疹が出てびっくりする」典型例。

不機嫌が強い時期があるが、回復は早い。


④ リンゴ病(伝染性紅斑)

  • 両ほほが 赤くなる(マスク型)
  • 体・腕・太ももにレース模様の発疹

実は発疹が出た頃には感染力は弱いため、
周囲にうつす心配はそこまで強くない。

ただし、妊婦さんがいる環境では警戒が必要


第4章 “咳が長引く”感染症と注意のポイント

咳は「軽症〜重症」の幅が広いため、状態の見極めが重要です。


① 百日咳

  • 夜間に 連続した発作咳
  • 息を吸うときに「ヒューッ」と音がすることも

乳児では無呼吸になることがあるため、小さい子ほど要注意

  • ワクチン(四種混合)がとても大切
  • 登園基準:抗生物質5日以上+咳が落ち着いてから

② RSウイルス

  • ゼーゼー、ヒューヒュー音がする
  • 呼吸が速い、胸がへこむ動き(陥没呼吸)がある

「呼吸が苦しそう」は迷わず受診。
特に生後6ヶ月未満は重症化の可能性が高い。


③ インフルエンザ

  • 突然の高熱
  • 頭痛・関節痛・倦怠感
  • 食欲低下 → 脱水に注意

家庭では “体力を奪わないこと” が最優先。


④ はしか(麻疹)

  • 感染力が非常に強い
  • 高熱 → いったん下がる → 再び高熱
  • 口の中に白い斑点(コプリック斑)

合併症のリスクが高く、ワクチンが最重要


第5章 “吐く・下す”感染症と正しい家庭ケア

「突然吐いた」「下痢が止まらない」「飲ませても戻してしまう」
こんな時、親はとても不安になります。
でも大切なのは “焦らず、体を休ませながら、少しずつ水分を戻すこと” です。

ここではよく見られる2つの代表的な胃腸感染症を解説します。


① ノロウイルス

  • 冬に大流行
  • 突然の嘔吐 → 続いて下痢
  • 発熱はあっても軽めのことが多い

感染力が非常に強く、家族内で連鎖しやすい のが特徴です。

■ 家庭ケアの基本

嘔吐が続くときは、無理に飲ませようとしないことが重要。
胃が動いていない状態で飲ませても、そのまま戻ります。

  1. 嘔吐がおさまるまで 30分〜1時間は何も飲ませない
  2. その後、小さじ1杯から経口補水液(OS-1など)をゆっくり
  3. 吐かないことを確認しながら、少しずつ量を増やす

✦ ポイント:一度に飲ませると吐く。少しずつ、ちょこちょこ。

■ 掃除・消毒

アルコールはノロには効きません
必要なのは 次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)

  • 嘔吐物 → ペーパーで包んで捨てる
  • 触れた場所 → 漂白剤を薄めた溶液で拭く
  • 嘔吐時の服 → 熱湯で処理 → 洗濯機

家族中に広がるのを防ぐ最大のコツは 処理と手洗い です。


② ロタウイルス

  • 乳幼児に多い
  • 白っぽい・水のような下痢 が特徴
  • 嘔吐・発熱を伴うこともある

脱水しやすく、特に0〜1歳代では注意が必要。

■ ロタは“重症化を防ぐワクチン”がある

生後2ヶ月〜開始できるロタワクチンは、重症化と入院リスクを大きく減らします

つまり「ロタは防げる病気」でもある。


脱水のサイン(受診目安)

  • おしっこが半日以上出ない
  • 口の中がカラカラ、涙が出ない
  • 顔色が悪い・ぐったり

迷ったら病院へ。
「水分が入らない」は赤信号。


第6章 目・のどにくる感染症


① プール熱(咽頭結膜熱)

  • のどが強く痛い
  • 高熱が数日続く
  • 目が赤く充血する

夏に流行しやすく、咳・鼻よりも のどと目 が中心。

■ 家庭ケア

  • 冷たい飲み物でのどを楽に
  • 痛みが強い場合は受診して鎮痛薬も選択肢
  • 目を触らない → タオルは全員

■ 登園停止

熱が下がり、症状が改善するまで。
比較的長引きやすい感染症。


② はやり目(流行性角結膜炎)

  • 目が真っ赤
  • 痛み・涙が止まらない
  • 目やにが増える
  • 感染力がとても強い

家族にうつる → タオル共用は絶対NG。

■ 登園停止

医師が感染力がなくなったと判断するまで
(=人によって期間差が大きい)


第7章 登園・登校はいつから?わかりやすい基準表

「治ったっぽいけど、もう行っていいの?」
これは保護者が最も迷うポイント。

“熱が下がった”“元気”だけでは判断できない病気もあるため、法的な基準を整理します。


▼ 主要感染症の登園基準

病名登園・登校できる目安理由・補足
みずぼうそう全ての発疹がかさぶたになったら乾燥していれば感染力が下がる
おたふく風邪耳下腺の腫れが消え、全身状態が良い症状が残る間は感染力あり
百日咳抗菌薬開始後5日、または咳が軽くなるまで咳が感染源
インフルエンザ発症後5日+解熱後2日(幼児は3日)法律で明確に決まっている
はしか解熱後3日合併症・感染力が非常に強い
手足口病全身状態が良ければ可発疹だけならOK
リンゴ病全身状態が良ければ可発疹出現後は感染力ほぼなし
ノロ・ロタ嘔吐下痢が止まり、水分と食事がとれる感染力は便で続くので手洗い徹底
プール熱熱が下がり、症状が改善するまで長引くことがある
はやり目医師の判断家族内感染・院内感染を防ぐため

大事な考え方

「元気かどうか」が最優先。
熱が下がっても、ぐったり・食べられない → 休もう。


第8章 家庭でできるケアの基本

感染症と向き合うとき、家庭でできるケアの中心は、
「体の回復の妨げにならないように手助けすること」 です。

「熱があるから薬で早く下げたい」
「食べさせなきゃ体力が落ちる」

と焦る気持ちは当然のこと。

でも、体は自分で治る力=自然治癒力を備えています。
親の役目は その力が働きやすい環境を整えること


① 水分補給は“ちょこちょこ”が基本

吐き気や下痢があるとき、一度に飲ませると吐き戻します。

■ コツ

  • スプーン1杯ずつ
  • 5〜10分おき
  • 「飲ませすぎない」ほうがうまくいく

■ 飲ませるもの

  • 経口補水液(OS-1、アクアライト)
    → 水分と塩分のバランスが整っている
  • 麦茶・白湯でもOK
    → ただし塩分が不足しやすいので長期はNG
  • ジュース・スポドリは避ける
    → 糖分が多い → 下痢が悪化することも

② 食事は「体力を使わないもの」から

子どもは 食べられるようになったら自然に食べます。
無理に食べさせる必要はありません。

■ 食べやすい食事例

  • うどん(柔らかめ)
  • おかゆ
  • 豆腐
  • バナナ
  • かぼちゃ / じゃがいも
  • ヨーグルト(腸を整える)

ポイントは 消化に負担をかけないこと。


③ 解熱剤は「つらいときだけ」

  • 熱そのものは「ウイルスと戦っている証拠」
  • だから 熱を下げる=治る、ではない

■ 使う基準

  • 食べられない / 水分が飲めない / 苦しそう
  • 夜だけ使用して眠れるようにする、もOK

“熱の高さ”より“機嫌と元気”を目安にする


第9章 感染を広げないための家庭環境づくり

① 換気は最強の予防策

感染対策と聞くと「手洗い」が頭に浮かびますが、
実は換気のほうが感染を大きく減らします。

  • 1時間に5〜10分、窓を2方向開ける
  • 換気扇は “弱”でも構わない → 常時ON

② タオル・歯ブラシは家族で分ける

とくに はやり目・ノロ・ロタ は、
タオル経由で 一気に家族に感染 します。

→ タオルは全員、別のフックへ。

③ 洗濯物は“最後に触った場所”を意識する

  • 嘔吐で汚れた衣類 → 熱湯処理 → 洗濯機
  • ループ感染が起こるのは 洗濯かご が原因のことも
    → かごの内側を時々ふきとり

④ 親自身の“疲れ”が感染を広げる

看病で寝不足 → 親の免疫が落ちる → 親が倒れる。
これが家庭内感染のラストボスです。

「無理しない」は、子どもを守る行動。


第10章 「病気をしながら強くなる」という事実

子育てをしていると、

  • また熱…
  • また呼び出し…
  • また休まなきゃ…

と、終わりのないように感じることがあります。

でも、忘れないでほしいのは、

子どもの免疫は、ひとつひとつの感染症を経験しながら育つということ。

生まれたばかりの免疫は、
まるでスカスカのノートのよう。

そこに、
「みずぼうそうを乗り越えた」
「ノロに対応できた」
「インフルに勝てた」

という 経験値のページが増えていく のです。

それは確実に、
その子の体を 強く、たくましくしていく。


親は何をしていればいい?

完璧じゃなくていい。
清潔も、栄養も、ケアも、できる範囲で十分。

  • 大切なのは「安心して休める家」を作ること
  • 子どもが治る力を信じて待つこと
  • そして 親自身が倒れないこと

子どもはちゃんと、強くなっていきます。
あなたがそばにいるだけで、それはもう十分なケアです。

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